なぐりがきノート

保育士。昨日より今日は素晴らしい。

とてつもなく甘いドーナッツとサリンジャーの名作と。(気分はとある村上さん。)

 僕は仕事帰りにドーナツを食べて帰ったんだ。
 始めに言っておくけど、この話はたいして中味のある話じゃないから、興味のない人はここで読むのを止めてくれたってかまわない。もしかしたらその方が僕にとって有難いことなのかもしれない。
 そのドーナツは、とてつもなく甘いドーナツで、頬張る度に咽てしまいそうになるほどだったんだ。僕がどうして仕事帰りにドーナッツ食べてしまったかというと、今日はひどく疲れていたことが大きな理由として挙げられるだろう。昨日までの長い休みの間、僕は全くというほど運動をしていなくて、それはまるで競争相手のいない亀のように、のんびりとした時間を過ごしていたんだ。そんな僕にとって、今日の仕事の内容はハード過ぎたんだ。どんなことがあったのかについては聞かないで欲しい。それをここで話すとなると、またあのとてつもなく甘いドーナツを食べなきゃいけなくなってしまいそうだから。
 とにかく、心も身体も頭もひどく疲れきってしまっていた僕には、とてつもなく甘いドーナツを食べて帰ることを我慢することができなかったんだ。こんな日はきっと君もそうするはずだ。
 とてつもなく甘いドーナツをむせそうになるのを我慢しながら食べ終わると、頭の方はだいぶましになっていた。でも身体のほうは相変わらず言うことを聞いてくれそうもなくて、仕方がなく次の時間の電車を見送って、僕は本を読むことにしたんだ。お気に入りの鞄の内ポケットの中にはこんな時の為に本を忍ばせていたからね。

キャッチャー・イン・ザ・ライ

キャッチャー・イン・ザ・ライ

 これが間違いだったんだ。ただ時間をつぶす為に開いたはずだったのに、その本は僕を酷く憂鬱な気持ちにさせた。そして、憂鬱な気持ちと一緒に自分が昔やんちゃだった頃の恥ずかし過ぎる思い出まで呼び起こしてくれてしまったんだ。これにはさすがにまいってしまった。僕の向かい側には、大きい眼鏡がやけに不釣りあいで気の強そうな女性が座っていたんだけど、その人の顔には僕の顔が赤くなるのが見えていたと思う。そう思うといてもたってもいられなくなって、慌てて本を閉じた。ふと、腕の時計に目をやると、いつの間にか次の電車の時間が迫っていた。本を鞄にしまい、席を急いで立つと、不思議なことにさっきまでよりは身体が軽くなっていることに気づいたんだ。
 そんなわけで、僕は無事に家路につくことができたんだ。帰る時間が遅くなったことについては妻には怒っていたけれどね。